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野生種の高麗人参はバイコフの森で育つ。やはりそうだった!

高麗人参[バイコフの森・チョウセンゴヨウと稲妻が不老長寿の霊薬を育む]

あなたは「不老長寿の霊薬」って存在すると信じますか。

もちろん私は信じています。古来より野生種の高麗人参(山参:サンサム)はそう呼ばれています。

高麗人参

そんな薬効をもった高麗人参の栽培を目指して、昔話や民話に論文などで山参の生育環境などを調べてきました。そして、辿り着いたのがマツの外生菌根菌による共生栽培です。

その栽培方法の裏付けとなる記述を、ロシアの小説家バイコフの著書「北満州の密林物語・バイコフの森」に、見つけました。思っていた通り、やはりそうだったのです。

ニコライ・A・バイコフと朝鮮人参

バイコフは、旧満州東部(現在の中国黒竜江省・吉林省)に広がる密林をこよなく愛し、そこに生息する動植物について大変詳しく記録しています。この地域は高麗人参のふるさとでかつて野生の高麗人参が多く採れたところです。

バイコフの略歴は次の通りです。

    ニコライ・A・バイコフ(1872 – 1958)

    ソ連(ロシア)の小説家,画家,狩猟家。ウクライナのキエフの世襲貴族の家に生まれる。

    高麗人参

    ペテルブルグ大学博物学科に入学するも2年で退学し、チフリス士官学校に入学。卒業後、東清鉄道の警備隊将校として満州に赴任。軍務の傍ら動植物の調査や狩猟を行う。第一次大戦やロシア革命に従軍し、革命後満州に亡命。

    満州の大原始林を舞台にユニークな動物文学を執筆、「偉大なる王」(1936年)で有名になる。1942年大東亜文学者大会に満州国代表として来日。1956年オーストラリアのブリスベーンに移住。

野生種の高麗人参と栽培高麗人参は全く別物

バイコフは、第5話の「朝鮮人参掘り」で、高麗人参について「この地球上で、朝鮮人参ほど伝説的な栄光と神秘性を持った植物は、ほかに一つもない。」と言っています。

そして、数千年の古代から、チベットや中国医学において、多くの重い慢性病や全機能障害に卓効を有する薬品として扱われきた高麗人参、「生命の根」として途方もない価格がつき、最高級品は、一本につき、二、三千ルーブル(金貨)の値がつくこともあると。

一方、人工的に栽培された栽培根は、栽培年数、形状、品質によって区分されるが、安いものだと一本につき三ルーブルから、高いものでも五十ルーブル。これは、東洋医学では栽培の高麗人参の薬効性を否定し、これを認めていないため、安い価格でしか扱われないとして、自生の高麗人参とは薬効の点、価格の点で全く別物であるとしています。

バイコフが人参掘りと密林を漂泊して得たもの

数々の言い伝えや説話をもち神秘的で、光栄、魅惑のあるこの植物に興味を抱いたバイコフは、人参掘り(シンマニ)と東満州の果てなき処女林を漂泊しながら、高麗人参について記録しました。
高麗人参[出典:バイコフ著「北満州の密林物語・バイコフの森」]
そんな中から、不老長寿の霊薬と云われてきた高麗人参の生息条件について2つ挙げています。

ひとつは、高麗人参はシベリアマツ(チョウセンゴヨウ)の林の存在が必須条件であること。

もう一つは、高麗人参は稲妻から生まれるという言い伝えがあること。

高麗人参はチョウセンゴヨウの林の存在が必須条件

バイコフは、

    この植物は日の光に弱く、茂みを通してくる光だけで十分である。どうやら、この植物にはシベリアマツの林の存在が必須条件らしく、ただ深いシベリアマツの林か混合林がある場所でのみ発見される。

と言っています。

このことを言い換えると、高麗人参は、日陰を好む陰性植物なので光合成による糖エネルギーの生産量は少ない。そのためチョウセンゴヨウマツから菌根菌を通して糖分を補ってもらうことが必須であるということではないかと思います。

チョウセンゴヨウの乱獲が高麗人参の絶滅を招く

戦後、チョウセンゴヨウは建築用木材としての需要が非常に高く、大量に伐採されています。また、繁殖を担うはずの種子も、滋養強壮効果があることから「海松子」、「松子仁」として漢方薬や、松の実として健康食品や料理の食材として非常に人気が高く、乱獲が続いています。

そして、チョウセンゴヨウの森はどんどん姿を消しています。これが野生の高麗人参がほとんど採れなくなった大きな原因です。

また、チョウセンゴヨウは、トラ、豹、テンなどの希少な野生動物が生息している豊かで広大なシベリアタイガの生態系の頂点にいることが近年の調査で明らかになってきました。

そしてついにというかやっと、ロシア政府は、2010年7月、極東地域の森林に生育する重要な樹種チョウセンゴヨウを「ワシントン条約」に掲載することを発表しました。ワシントン条約は、希少な野生動植物を守るため、国家間の取引を規制する国際条約です。これにより、ロシアから周辺国に向けた、木材としての輸出が制限されることから、現地の違法な伐採にも歯止めがかかることが期待されています。

高麗人参は稲妻から生まれる

バイコフは、

    朝鮮人参が稲妻から生まれるという言い伝えがある。稲妻が山の源泉の清澄な水を打つと、泉は地中に姿を消す。すると、そこに天上の火の力と、無限の世界のエネルギーとを備えた朝鮮人参が生えてくるのである。したがって、ジェン・シェンは、時として、「シャン・ジェン・シェン(閃人参)」、つまり稲妻の根とも呼ばれることがある。

と言っています。

稲妻が発生して育つものと言えば、キノコを思い出します。日本には、落雷があるとその年はキノコがたくさん採れるとの昔からの言い伝えがあります。

その言い伝えを科学的に実験したところ、それが真実であることが分かっています。そして、生産量を2倍にすることを謳ったキノコ栽培用人工雷装置が市販されています。これは、落雷に危機感を持った菌糸が繁殖のために子実体(胞子を放出する器官=キノコ)をつくるからではないかと言われています。

高麗人参は菌根菌を通してチョウセンマツと共生関係にある

そこで、本ブログの読者の皆さんはお気付きだろうと思います。キノコすなわち外生菌根菌です。

つまり、稲妻が発生すると菌根菌が繁殖する。菌根菌が繁殖すれば、チョウセンマツが元気になる。チョウセンマツが元気になれば、高麗人参が良く育つ。

バイコフの言う2つの事象からこのような推論が成り立ちます。いや、もはやこれは確信です。

よって、高麗人参を元気良く育てるためには、チョウセンマツに元気になってもらう必要があります。

高麗人参[盆栽の吾妻五葉松とキノコの美しい共生関係]

この写真は、ぼんさいや阿部大樹氏よりご提供いただいたものですが、盆栽の吾妻五葉松の根元に何とも美しいきのこが生えています。こんな小さな鉢の中にマツと菌根菌の共生関係が成り立っていて大変興味深い写真です。優れた栽培方法に感心する次第です。

また、マツを元気にするための装置を発明された方がおられます。以前ブログでも紹介しました松枯れ防止ネットワーク代表の宗實久義氏です。


電気刺激による樹勢回復装置 ”松護郎”

宗實氏の特許によると、土壌に定電流の高電圧を印加して電気刺激を与え、菌根菌を増殖させて菌根を形成させ、発根を促すことによって樹勢を回復させるとあります。

印加する電流は10~120mA、電圧は1万~10万V、時間は0.3~60秒。事前に、樹木の根に剪定断根を行い、その周辺の土壌中に電気導体の粉粒を混合して、土壌改質をしておく必要があります。電気導体としては、粉炭や導電性セラミック炭などの多孔性のものが、菌根菌の担体としても機能も奏するので好ましいとしています。電気刺激により、菌根菌の増殖、胞子の発芽、菌糸の分化伸長、及び菌根の形成が促進されます。

このように稲妻とマツとの関連は、菌根菌により科学的に解明され、実際に実用化をされています。

一方、菌根菌と高麗人参については、ウコギ科の植物と外生菌根菌とが共生関係を築くことは生物学上まだ確認された例はありません。

このあたりを科学的に解明していけば、不老長寿の霊薬と云われる山参の栽培に大きく近づくことになります。

    参考資料
    特許第442068号(P5442068)、樹勢回復方法、発明者:宗實久義、出願日2012年6月20日