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野生の高麗人参のふるさと中国長白山はチョウセンゴヨウの森

高麗人参長白山の麓に広がるチョウセンゴヨウの森は高麗人参の自生の地 [出典:http://www.gjgy.com/cbstc_trad.html]
小川眞先生のお話の中から、野生の高麗人参は特定の外生菌根菌と共生するのではなく、マツと広葉樹の混合林がつくる強力な外生菌根菌ネットワークに守られて育つことがひつの可能性として見えてきました。

そこで今一度中国吉林省の長白山の森林の樹種について調べてみました。

また、韓国では高麗人参は畑栽培だけでなく森林栽培も行われているようですので、どんな樹種の森林で栽培されているのか調べてみました。
長白山、尚州市、咸陽郡の3か所です。位置は地図をご参照ください。

高麗人参高麗人参の産地、中国長白山、韓国尚州市、咸陽郡

高麗人参のふるさと中国長白山の森林の樹木

人間が発見する前から生息していた高麗人参、そのふるさと中国長白山(日本名:白頭山)は朝鮮半島の付け根にあります。

高麗人参のふるさとは民話の通りチョウセンゴヨウの森だった

標高2744m、1597年に噴火した火山です。頂上は天池と呼ばれるカルデラ湖があり、周囲14km平均水深は200メートルを超え満々と水を湛えています。この豊富な水量は、なだらかに広がる広大な山麓に豊かな自然を育んでいます。

標高500から1200メートルに広がる広大な森は、チョウセンゴヨウと広葉樹で構成されています。そして生物多様性に富み、虎や高麗人参のような絶滅危惧種の生息地となっています。

民話に語り継がれてきたように高麗人参はチョウセンゴヨウの森に守られてきたようです。しかし、この森は主要な木材供給源でもあるため伐採が続き、生物多様性が失われ来ています。

種子の乱獲がチョウセンゴヨウの森を壊す

危機感を感じた中国、ドイツ、アメリカの研究者によって、長白山生物保護区の森林について、チョウセンゴヨウと広葉樹から成る混合林が今後どのような変化をするのか予測しています。

広葉樹はいずれも落葉高木で、カエデ、シラカンバ、ヤチダモ、ヤマナラシ、モンゴリナラ、シナノキ、ハルニレなどで、これらとチョウセンゴヨウのパラメータをシミュレーションソフトKOPIDEに入れると将来予測ができるそうです。

高麗人参チョウセンゴヨウの松ぼっくり

その結果、チョウセンゴヨウと広葉樹の森は人間の介入がなければ比較的安定だとしています。チョウセンゴヨウの種子は漢方薬として人気が高いため、乱獲が続いています。

これを禁止あるいは制限することが必要だとしています。チョウセンゴヨウの種の乱獲が続くと、チョウセンゴヨウの再生産が減少し、この貴重な混合樹林は広葉樹の森に変わっていくと予測しています。


韓国では高麗人参を森林で栽培している

韓国ソウル大学のWoo氏は、オークとマツとこれらの混合林における高麗人参の成長を調査しました。

高麗人参の栽培に適した森はオークの森

場所は韓国中央部の尚州市(Sangju)近くの山林。オーク100%の山林、マツ100%の山林、オーク85%マツ15%の混合林で実験が行われました。

オークは日本ではカシ(樫)と訳され常緑樹のことを言いますが、ヨーロッパでいうオークは落葉樹のナラ(楢)のことをさすのが一般的です。また、マツの種類については特に記載がありませんので不明です。3種類の山林はいずれも東南向きの緩斜面で海抜は110メートル、土壌は砂壌土でほぼ同じ条件となっています。

5年間栽培した結果、乾燥根10本の平均重量は、オーク林が0.9g、マツ林が0.6g、混合林が0.7gとなり、オーク林が最も成長が良かったと報告しています。

オークの森は高麗人参にとってちょうどいい日覆

この理由について、Woo氏は陰性植物の高麗人参にとっては遮光度の高いオーク林が適しているからだとしています。しかし、林冠範囲はオーク林が80%、マツ林が75%、混合林が80%で大差がありません。

高麗人参地表より樹冠を望む_左よりマツ林、オーク林、混合林

また、光合成速度を測定し、オーク林が5.0、マツ林が3.6、混合林が3.9としています。単位はμmol co2/m2sです。いずれも光強度が200μmol/m2sという著しく弱い光で飽和します。

そして、いずれの林も日中は200μmol/m2s以上で飽和状態となっています。光強度ピーク値についても、オーク林が480、マツ林が490μmol/m2sで大きな差はなく、オーク林が適している理由としては乏しいと感じます。

また、Woo氏は光合成速度と大気中の二酸化炭素の葉の葉緑体への移動のしやすさを表す気孔伝導度が比例関係にあることを室内実験の結果として示していますが、当然のことでオーク林がよかった理由になっていません。

結論として、Woo氏は樹冠の大きなオーク林が陰性植物に必要な低照度と適切な土壌水分の環境を提供しているとしていて、照度にしか言及していません。なぜマツ林が最も成長度が低かったのか知りたいところです。マツを追っかけている筆者にとって気になる結果です。

また、Woo氏は森林の樹種と高麗人参の薬用成分との関係について調べていくと結んでいます。高麗人参は根の重さに注目が行きがちですが、成分は重量以上に重要です。そのうち菌根菌が登場するかもしれません。追っかけていきたいと思います。

森を構成する樹種によって土壌の質が変わる

韓国慶尚南大学のKim氏もWoo氏と同様に、高麗人参の森林栽培における最適な樹種の研究を発表しています。

場所は キョンサンナン(慶尚南)道 ハミャン(咸陽)郡です。以前に当ブログで紹介したニンジンハンターが山参を探し求めて入山していた所です。また、高麗人参の森林栽培が盛んなところでもあります。よってそれなりに高麗人参に適した環境であるのは間違いありません。

Kim氏はこれらの栽培地の樹種と土壌の関係を調べています。樹種としてはアカマツ林、カラマツ林、落葉広葉樹、アカマツとオーク林の4種類、土壌については、密度、水分量、通気性、PH、ECやC、N、Pなどについて調べています。

アカマツ林は高麗人参栽培に適していない?

高麗人参落葉:左はマツ林、右は混合林

針葉樹林は広葉樹林に比べPHが低く酸性度が高い、また水分量や炭素、窒素など栄養が少ないとしています。とくにアカマツ100%の林では強酸性で栄養欠乏土壌なので、高麗人参の栽培にふさわしくないかも知れないとしています。

しかし、菌根菌の立場からするとこの状態は良い環境といえるはずなのですが?

あいにく、これらの土壌と高麗人参の成長を表すものとの比較がなされていないため明確にできないのが残念です。ただ、いずれの森林でも実際に高麗人参の栽培がおこなわれていることを考えると、高麗人参の環境適応範囲は結構広いと考えられます。

中国長白山の森は民話の通りチョウセンゴヨウを中心とした広葉樹との混合林でした。

一方、韓国では高麗人参の森林栽培の研究が盛んに行われていますが、オークの森が適しているとの結果となっています。これは照度の観点からの結論です。残念ながら外生菌根菌に着目した研究はまだ行われていないようです。

    参考資料
    1) Guofan Shao, Peter Schall, John F. WeishampeF (1994) “Dynamic simulations of mixed broadleaved-Pinus koraiensis forests in the Changbaishan Biosphere Reserve of China”, Forest Ecology and Mangement 70(1994) 169-181
    2) Su-Young Woo et al (2002) “A Study on the Growth and Environments of Panax ginseng in the Different Forest Stands (I)”, Korean Journal and Forest Meteorology Vol.4, No.2 (2002), pp.65-71
    3) Su-Young Woo et al (2004) “Growth and Eco-Physiological Characteristics of Panax ginseng Grown under Three Different Forest Types”, Journal of Plant Biology September 2004, 47 (3) : 230-235
    4) Choonsig Kim et al (2015) “Soil properties of cultivation sites for mountain-cultivated ginseng at local level”, Journal of Ginseng Research 2015; 39; 76-80