文字サイズ

  • 標準
  • 拡大

凄いぞ!アーバスキュラー菌根菌による高麗人参プランター栽培

高麗人参[高麗人参栽培、左から市販育苗用土、対照区、アーバスキュラー菌根菌、トリコデルマ菌]

高麗人参の土づくりってもっと簡単にできないの?
今年5月のブログの続報です。

高麗人参の土づくりのポイントは、「アーバスキュラー(VA)菌根菌グロマス属が棲んでいる土」です。本来なら、スダックスやソルゴーなどの緑肥作物を育て土着のVA菌根菌を増殖させるのですが、2年~3年もかかってしまいます。高麗人参が高価になる理由にひとつです。

幸い出光アグリよりVA菌根菌が土壌改良資材として市販されていますので、これを用いてプランターで栽培を試みましたというのが前回までのお話しです。

VA菌根菌に加え、その他の用土も比較実験

VA菌根菌の実験に加え、市販の育苗用土とトリコデルマ菌についても併せて実験しました。

育苗種まき培土

高麗人参[育苗種まき培土]

プロが育苗用に調合した培土です。ピートモス、赤玉土、鹿沼土、パーミキュライト、くん炭、化成肥料が配合されています。用途は野菜や花です。無菌となっていますので、菌根菌をはじめ微生物を含まない無菌の土です。そのままで使用しました。高麗人参もある意味野菜ですので案外いけるかもと思ったりもします。


トリコデルマ菌

高麗人参[トリコデルマ菌入り土再生資材]

ホームセンターをぶらついていて菌の文字が目に入ったので思わず購入。土をリサイクル使用するために開発されたようで、有用微生物のトリコデルマ菌が土壌病害菌を抑制し、土壌をふかふかにすると説明書きがあり、「菌」と「ふかふか」に惹かれて試してみることにしました。

トリコデルマ菌は木材腐朽菌の一種。木材腐朽菌は、シイタケやエノキなどの白色腐朽菌と、サルノコシカケなどの褐色腐朽菌、そしてトリコデルマ菌などの軟腐朽菌に分類されます。いずれも枯れた木材を分解する働きをします。軟腐朽菌は高含水率の木材を分解する能力があります。トリコデルマ菌は優れた分解能力で病害菌の発生を抑えてくれます。病害菌に弱い高麗人参に期待がもてます。


脱線しましたが、本命はあくまで大賀先生はじめ3件の論文で感染が確認されているアーバスキュラー菌根菌グロムス属です。

アーバスキュラー菌根菌の優れた効果、凄い!

高麗人参[高麗人参プランター栽培_2016/06/12]

百聞は一見に如かずです。写真を見てください。高麗人参プランター栽培の6月、9月、10月の写真です。左側プランターから、育苗種まき培土、対照区(赤玉土)、アーバスキュラー菌根菌、トリコデルマ菌です。


高麗人参[高麗人参プランター栽培_2016/09/03]

9月に入って台風が連続して襲来し、高温多湿が続いたせいもあり葉っぱが枯れるものも出ています。葉が枯れる原因については、立ち枯れ病のようにも見えますが、従来の畑栽培も対照区と似た状況ですので、季節的にそのような時期に入ったとみてよさそうです。よって、対照区を基準に判断することができます。


10月に入っても葉は青々としている

高麗人参[高麗人参プランター栽培_2016/10/01]

いずれの用土も対照区より地上部の葉の状態は良く、育苗種まき培土<トリコデルマ菌<アーバスキュラー菌根菌の順に葉の生存率は高くなっています。アーバスキュラー菌根菌は10月時点でも100%生存しており、まだ成長を続けているように思います。凄いの一言です。


根は太く長く立派な1年苗に

高麗人参[左から市販育苗用土、対照区、VA菌根菌、トリコデルマ菌_2016/10/01]

地下部の根部の確認のため任意に数本抜いてみました。右の写真です。順番は地上部の写真と同じ順番です。葉の状態と同様に、左から3番目のアーバスキュラー菌根菌を接種させたものが、長さ、太さにおいて他より優れた成長をしています。

これとて会津人参栽培研究会の仲間のものに比べてまだまだ小さいです。もう10月で普通なら成長は見込めませんが、まだ青い葉を持っていますので、これからの成長に期待したいところです。

今回のプランター栽培は、育苗が目的ですので、最終的には地上部がすべて枯れた後に、すべて掘り出して評価をしたいと思っています。


アーバスキュラー菌根菌グロムス属にもいろいろある。

Dr.キンコンには、グロマス属の複数種とギガスポラ属ギガスポラ・ラミスポロフォラが使用されています。グロムス属には、グロムス・ベルシフォルナ、グロムス・エスピー、グロムス・ファスシキュレータム、グロムス・モッセ、グロムス・カレドニウム、グロムス・エツニケータム、グロムス・マクロカルパスなどなど多くの種があります。

出光アグリではイチゴ、ネギ、ピーマンとの相性が良い種を厳選して専用タイプも設けています。

これは、一般的にはVA菌根菌は宿主を選ばないと言われていますが、多少なりとも相性があるためです。そもそも微生物と植物の共生はお互いが認識し合ってはじめて成り立つものらしく、それは遺伝子に組み込まれているとDrキンコン開発者。男女の相性も遺伝子に組み込まれているのでしょかね。

グロムス属のどの種が共生した?

九大大賀先生や小川先生の分析によると、高麗人参の共生菌根菌はグロムス属モッセが共通の種です。Drキンコンはグロムス・モッセを含んでいますので、これが貢献したものと考えられます。残念ながらそれを確認するための手段を持っていませんが、顕微鏡観察で確認できないか今後の課題としていきます。

もっと安価なアーバスキュラー菌根菌

アーバスキュラー菌根菌の確かな効果を確認することができました。しかし、病原菌に対する耐性が向上したかどうかについては3年以上観察していかないと何とも言えません。まず1年目の状況ではかなりいい線を言っているように思います。さらに実際に根を掘りあげて、根長、太さ、重さを調べたり、VA菌根菌の感染状況を顕微鏡で観察していきます。

それにしてもDrキンコンは、1kg12000円と非常に高価です。読者の方でもっと安価なVA菌根菌グロマス属をご存知の方がおられましたらお知らせ頂ければ幸いです。

    <参考資料>
    根と共生して作物を強くするー菌根菌の活かし方ーDr.キンコンの効果と利用
    佐藤敏昭、鈴木源士著 (出光興産株式会社 研究開発部)