読者の方から、高麗人参の水耕栽培のその後についてお問い合わせを頂きました。非常に熱心に読んでいただいているようで大変感謝申し上げます。随分時間が経っていますが、水耕栽培のその後について報告します。
高麗人参の水耕栽培の今までのレビュー
水耕栽培関連のブログ記事は下記の6件です。2年近くもサボってました。
2015年12月22日/ 高麗人参の水耕栽培1年目、まずは難関の発芽から
2015年12月24日/ 発芽後0.5カ月の高麗人参の若苗を水耕栽培に移植しました
2015年12月24日/ 高麗人参の水耕栽培って簡単じゃん!気のゆるみが招いたポカミス
2015年12月25日/ 高麗人参の根腐れを防げ!マイクロナノバブルは救世主になるか。
2015年12月27日/ 高麗人参の根に付く謎の物質、メダカは栽培の救世主か、悪魔か?
2016年 2月 2日/ 高麗人参の根に付いたゼリー状のものは、粘液物質ムシゲルだった
高麗人参の水耕栽培についての今までの経過
2015年4月中旬に発芽した苗を、5月初めにきれいに洗浄して2つの水耕栽培槽に移植。どちらの水槽も順調に成長していましたが、2カ月後第一水槽の養液交換の際、養液から引き揚げていた時間が1時間を超えたあたりから高麗人参の葉が萎れ始めました。
乾燥に強いと思われた高麗人参でしたが意外に乾燥に弱く、慌てて養液に浸漬。萎れ程度の酷かったものは枯れてしまい、程度の軽いものも元気がありません。
当時注目を浴びていたマイクロナノバブル水を購入し、水槽に投入。ナノバブル水の効果があったようで枯れていく高麗人参が減少しました。
第二水槽にはマイクロナノバブル発生器を取り付け常時ナノバブルを供給した効果が現れ、高麗人参は順調に成長していました。しかし、よく見ると根にゼリー状のものが付着していることを発見。これが将来の根腐れの原因になるのではないかとの懸念から、取り除くことを検討しました。
ゼリー状のものをメダカに食べてもらう方法を思いつき、メダカを水槽に投入。しかし、メダカが持ち込んだ雑菌でカビが発生してしまいました。その結果、第二水槽のすべての高麗人参が全滅という結果になりました。
よく見ると、根の頭にはすでに来春の新芽が形成されていたので、丁寧に消毒し冷蔵庫の野菜室(9℃)で保管しました。
少し前置きが長くなりましたが、ここまでが今までにブログに書いた内容です。
高麗人参の水耕栽培のフィージビリティスタディ
ここからは、これらの高麗人参を使用して、高麗人参の水耕栽培の可能性があるのかどうかの味見実験をしました。
高麗人参は多年生宿根草ですので、冬は地上部の葉や茎は枯れて休眠します。そして翌年の春になれば、芽を出し葉をつけて成長活動に入ります。
水耕栽培するためには設備投資が必要ですので、資金回収のために早い成長が要求されます。早い成長には、成長期間の伸長と休眠期間の短縮がポイントとなります。このあたりの感触を得るために実験を継続しました。
高麗人参の成長期間の伸長
不思議なことに高麗人参の出芽は桜の開花に一致しています。福島では高麗人参は4月中旬に出芽し、9月末ごろ落葉します。つまり成長期間は165日程度です。
第一水槽の生存する高麗人参の水耕栽培を継続しました。水温を17℃以上に保った結果、12月まで緑の葉を確保することができました。実に242日間の成長期間を確保できました。ハイドロコーン培地の物は262日に達するものもありました。
すなわち、成長期間を通常栽培の50%以上に伸ばすことが可能であることが確認されました。
高麗人参の休眠期間の短縮
第一水槽で242日間の成長を終え休眠に入った高麗人参の根を冷蔵庫(4℃)に保存。一週間後に、土に植えたとところ1か月後に4本中2本が出芽しました。
通常2年目は5葉2茎ですが、いずれも3葉1茎しか出芽しませんでした。200日を超える成長期間にもかかわらず根が小さいことが原因と考えられます。
第二水槽のカビで全滅し冷蔵保存していた高麗人参の根を、3か月後の10月にハイドロコーンに植えたところ、2週間後に20本中2本が出芽しました。1本は5葉2茎、もう1本は5葉1茎でした。
結論として、休眠打破の確率は低く、たとえ出芽しても5葉2茎にならないことが分かりました。
高麗人参の水耕栽培のモデルケース
高麗人参の栽培にとっての大きな課題は、連作障害と栽培期間が長いことです。この2つを解決する方法として水耕栽培のフィジビリティスタディを実施してきました。土を使用しない水耕栽培では連作障害はまず問題とならないでしょう。
一方、栽培期間の短縮については、休眠打破などまだまだ詰めていかないといけない課題は多いですが、次のようなモデルケースを考えることができます。
<モデルケース:2年間で4年根を育てる>
(1)1~2年生を1年間に短縮
高麗人参の1年生は、3枚の葉しかありません。肥料を与えようが、日照時間を延ばそうが3枚です。2年生は5葉2茎で、3年以降5枚葉3茎で葉の枚数が増えることに加え、葉の面積が飛躍的に大きくなります。光合成をおこなう葉の面積が小さい1~2年生を1年間に短縮する。
(2)3~4年生を1年間に短縮
葉の面積が飛躍的に大きくなった3年生を休眠させることなく通年栽培することで3~4年生を1年に短縮する。
このモデルケースのような栽培方法が確立されれば、江戸時代より300年続いた高麗人参の栽培方法も新たな段階に入ります。
栽培期間の短縮については、千葉大学と株式会社アミタ持続可能経済研究所が取り組んでいますので、ご興味がある方は次の特許を参考にされるとよいと思います。
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特許出願公開番号:特開2015-181369 【発明の名称】オタネニンジンの生産方法