「運営者は、高麗人参をより多くの方々に届けれるように水耕栽培の研究に励んでいます。」とご紹介させていただいていますが、いっこうに水耕栽培の報告がないために、「本当にやってるの?」なんて声がちらほら。
安心してください。やってますよ。
年の瀬も押し迫っていますので、今年の状況をまとめ、遅ればせながら報告していきたいと思います。まずは発芽から。
高麗人参の発芽はやっぱり難しい
歴史上、高麗人参を栽培するにあたっての一番最初の問題は、発芽の難しさでした。黒田官兵衛から始まった栽培研究も、140年後の徳川吉宗の日光における本格的な高麗人参栽培事業でやっと発芽に成功します。しかし当時の発芽率はまだまだ低かったようです。
結論から言いますと、今回の発芽率は36%と低調でした。やはり一筋縄ではいきません。
発芽の難しさを懸念して何種類も土を用意しました
発芽用土は、表1の5種類を用意しました。水苔、ハイドロコーンには肥料分がありませんが、水耕栽培への移植作業がしやすいこと、土壌雑菌を持ち込まないことを考えて加えました。
名称 | メーカー | 仕様 |
水苔 | 日清 | 超圧縮水苔No.150(復元容量約12L) |
ピートモス | トチミ | トチミグリーンサービスピートモス18L |
育苗用土 | 日清 | ガーデンメイトさし芽種まきの土5L |
ハイドロコーン | アイリスオーヤマ | ハイドロコーン5L中粒 |
培養土 | アイリスオーヤマ | ゴールデン粒状培養土14L |
高麗人参は酸性土壌を好むことから、ピートモスを各土に少量加えたものも用意しました。全部で9種類の土となりました。
高麗人参の種は、福島県会津産のものを2種類用意しました。種Aは白く、種Bは白いものや黒いものなどがあります。催芽処理の方法が違うとのことでした。
昨年12月中旬に、播種トレー(128升、升サイズ30×30×37Hmm)に播きました。
発芽時期の早さは催芽処理の影響が大きい
年が明けて2015年の春4月10日に、水苔に播いた種Aの発芽を皮切りに順次発芽してきました。
2日後の4月12日の発芽状況は表の通りです。まず気づくのは種Aと種Bの発芽率が倍以上の開きがあることです。催芽処理によって胚の成長具合の差が出ているようです。写真でも種Aのほうが大きく殻の開きも広く、胚がよく育っていることがわかります。
そんな中で土No.6が比較的差が少なくなっています。また同じ種Aの中でも、土No.1の63%に対し土No.7は2%となっていて、土の影響もあるようです。
発芽率は、催芽処理と発芽土壌の組み合わせで決まる
おおよそ発芽が終わった5月2日時点の発芽率は、種Aも種Bもどちらも約36%で差は見られませんでした。
しかし中身的には、最も高いのは種Aと土No.2の組み合わせで72%、最も低いのは種Aと土No.9の組み合せの5%から窺えるように、催芽処理によって好みとする土壌が違うということです。催芽処理と土の相性があるようです。
全体的に言えるのは、弱酸性で、窒素分の少ない土が発芽率が高そうです。
種は催芽処理されたものを購入するため制御できませんので、そこそこ発芽率を確保できる土No.2、4、6が良さそうです。
将来的には自分で採種し催芽処理も行うようにして、安定的に高い発芽率を目指していきます。
発芽後の苗の勢いは、根への酸素供給量で決まる
発芽直後の5月2日と5月22日時点の写真を下に載せていますが、この間の葉の成長具合を表にまとめてみました。意外にも、水苔やハイドロコーンなど養分のない土での勢いが良くなっています。
この時期の成長はもっぱら種子からの養分で賄われていますので、土壌が肥沃かどうかは関係なさそうです。この時期は根に、より多くの酸素を供給できる水苔やハイドロコーンがいいようです。
催芽処理の影響が少なく勢いがいいのは、土No.4,5,6あたりです。
水耕栽培には、種子・用土に関係なく勢いのある苗を選抜して移植していきます。
水耕栽培の発芽用土は弱酸性のハイドロコーンがいい
種を選ばずそこそこの発芽率と苗の勢いを確保できる発芽用土は、No.4とNo.6が良さそうな結果となりました。
No.4は日清の種播き用土で、さすがです。内容は、赤玉土・鹿沼土・ピートモス・十和田軽石を配合しているようです。ピートモスがすでに入っているので、さらにピートモスを追加したNo.7では酸性が強すぎたようです。
一方No.6は、ハイドロコーンにピートモスを加えたもので、養分はありませんが、発芽用には良いようです。今後の成長のための肥料は、水耕栽培の養液で考えればいいので、酸性のハイドロコーンが水耕栽培の発芽培土には良いかもしれません。
植物工場に欠かせない2つの発芽技術
土壌を使用しない発芽技術
世の中筆者以外にも高麗人参の水耕栽培を研究されている機関はありますが、ほとんどは土耕栽培で育てた2年根を水耕栽培に移植しています。
土壌には多くの雑菌が棲んでいます。水耕栽培では病原菌の侵入は全滅を意味します。それを防ぐためには消毒ということも考えられますが手間がかかります。
今回、種の段階から水耕栽培を予定していましたが、種を冷凍保存してしまいました。全くの無知が原因です。挽回を試みて、ジベレリン処理なども試みましたが、1%にも満たない非常に低い発芽率となってしまいました。
催芽処理方法と培地の組み合わせを検討していき、高い発芽率を目指します。
時期を制御できる発芽技術
植物工場では、生産性を向上させるために時期を選ばず任意に発芽させる技術が必要です。必要な時に必要な数を生産する、トヨタ生産方式JIT(Just In Time)です。
今後の課題として取り組んでいきます。
次回はいよいよ水耕栽培への移植です。