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高麗人参の果実には主根の4倍のジンセノサイドが含まれている

高麗人参[高麗人参の果実 Ginseng berry 6月はまだ青く、7月末には真っ赤に]
高麗人参といえば、根だけと思っていませんか?

果実にも優れた効能があります。

高麗人参の果実は、人参子、Ginseng Berry ジンセンベリーと呼ばれ、有効成分のジンセノサイドが主根よりも多く含まれていることが最近の分析で分かってきました。

高麗人参は5月中ごろ開花し真っ白な可憐な花を付け、6月には緑の果実が膨らんで、7月下旬には真っ赤に熟し、まるでルビーの宝石のようなジンセンベリーが実ります。

おたねくん、根だけではだめですよ。ジンセンベリーの真っ赤なジュエリーをつけよう!
高麗人参[高麗人参の開花から結実まで]

ジンセンベリーの驚異のパワー

高麗人参の果実は採れる量が、非常に少なく貴重です。さらに保存や加工が難しいことから、根のように広く用いられることはありませんでした。

中国では、唐時代に皇帝や貴族の滋養強壮の御菓子として楽しまれた程度でした。

また日本においては、1938年に出版された今井鞆著「人参史」第五巻医薬篇のなかで、人参子について次のように記されています。

    田村藍水「人参譜」補記に・・・實 六七月紅子を採り核を去り陰乾細末と為し之を服す。其効五味子に勝る。夏月湯と為して之を服すれば渇を止め津を生じ大に脾胃を益す・・・・

田村藍水は、ブログに度々登場していただいています高麗人参の栽培方法を世界で初めて確立した江戸時代の医師です。果実の薬効を確かめるために、果実を乾燥させて粉末にして服用したようです。

その効果は五味子に勝るとしています。五味子とはチョウセンゴミシのことで日本薬局方にも登録されている生薬です。なぜ五味子と比較したのかわかりませんが、人参子をあまり重要視していなかったのではないかと思われます。

さらに朝鮮総督府に勤務していた今井鞆は、韓国には人参子を使用している風習は見当たらないとしています。

このようにあまり関心がなかった人参子ジンセンベリー、注目を浴び出したのはつい最近のことです。

「宮内庁が雅子さまに届けた良薬」として週刊誌にスクープされるなど今後ますます注目度が高まってくる生薬です。

ジンセンベリーのジンセノサイド含有量は主根の4倍以上

高麗人参の有効成分のサポニンには、他の植物より優れた効能を持つため区別して、ジンセノサイドと呼ばれています。

元北里大学の川村賢司医師は、著書「人参子」に、主根と果実に含まれるジンセノサイドの分析結果を示しています。下表はそれを基に作成しました。主根・果実はともに乾燥物で、表中の数値の単位は重量%です。

サポニン系 成分 主根 果実 果実/主根
P.D系
(プロトパナキンジオール系サポニン)
Ro 0.30 0.12 0.40
Ra 0.11 0.60 5.45
Rb1 1.64 0.10 0.06
Rb2 0.57 1.40 2.46
Rc 0.61 0.96 1.57
Rd 0.21 3.20 15.24
PD計 3.44 6.38 1.85
P.T系
(プロトパナキントリオール系サポニン)
Re 0.57 12.60 22.11
Rf 0.04 0.05 1.25
Rg1 0.59 0.95 1.61
Rg2 0.07 0.78 11.14
Rh 0.04 0.07 1.75
PT計 1.31 14.45 11.03
合計 4.75 20.83 4.39
PD/PT 2.63 0.44

表より、ジンセノサイドの含有量では主根の4.75wt%に対して果実は20.83wt%と、実に4.39倍のジンセノサイドが含まれています。

また、サポニンの系統では、PD(Protopanaxatriol)とPT(Protopanaxadiol)との比率PD/PTを比較すると、高麗人参の主根が2.63に対し、高麗人参の果実は0.44と明らかな差異と特徴を示していることが分かります。

ジンセンベリーにはジンセノサイドReが主根の22倍

高麗人参の果肉と主根で成分に最も大きな差異を示しているのがジンセノサイドReです。実に22倍の差異があります。

Reの化学構造式と主な働きは次の通りです。
高麗人参[ジンセノサイドReの化学構造式と働き]

ジンセンベリーの効能

高麗人参の根の効能に加え、特に次のような効能が期待されます。

動脈硬化を予防し心疾患機能を改善し高血圧症を防ぎます。エネルギー代謝を活性化して体重の増加を抑制し、高脂血症を予防します。また、インスリン感受性を増加させることによる抗糖尿病効果を有することが知られています。

すなわち長寿国日本の死亡の起点となっている生活習慣病の予防および改善の特効薬として大いに期待がもてます。

高麗人参の果実ジンセンベリーが注目されなかった3つの理由

これだけ優れた薬効を持つジンセンベリーですが、主根に対して注目されてこなかったのはなぜでしょう?

また、優れた薬効が判明した現在でも商品の種類も流通量も少なくなかなか入手するのは難しいのはなぜでしょうか。それには次の3つの理由があります。

ジンセンベリーは収穫量が非常に少ない

高麗人参の果実は3年目から実りますが、3年目はまだ未熟なため、4年目に採種します。種の充実を図るため花の一部を摘花しますので、1株当たり40個程度です。

種を除いた果実1粒の重さは約0.1グラム程度ですので、1株当たり4グラムしか取れません。根の重さが80~100グラムに対して1/20以下です。しかも果実は根より水分を多く含んでいますので乾燥後の重量比はさらに広がり1/40程度になります。

ジンセンベリーは果肉の回収が難しい

1粒の果実の中に種が1~2個入っています。今まで果実の有効性が注目されていなかったことや果肉が残っていると発芽率が低下することから、果肉はぞんざいに扱われいます。

果実を網に入れて流水の中で足で踏んで揉みながら、果肉と種を分離しています。果肉は流水中に流れてしまうため、これを回収するのは非常に困難となります。

ジンセンベリーは根の成長を妨げる

高麗人参[摘花され捨てられたべりー]

植物は子孫を残すため花を咲かせ実を付けます。自分の身を削ってと言えば大袈裟ですが、栄養の多くを消費して果実をつけます。

高麗人参の場合、根の成長の半年分の栄養を費やします。人によってはその年の根の成長は見込めないと言います。そのため、採種量は次年に必要な最低限に抑え、残りは花の段階で摘んでしまいます。このように、ジンセンベリーには有効成分が凝縮されていることが窺えます。


ジンセンベリーは非常に希少ですが、栽培方法の革新で収穫量を増やし、その優れた薬効を皆さんにお届けできるよう頑張っていきます。

    参考文献
    特許公報(B2) 特許第5365527号(登録日:平成26年10月24日)、「動脈硬化の予防または治療用組成物」、出願人:株式会社アモーレパシフィック