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高麗人参の薬効は、むかしむかし猟師の冬山遭難がきっかけで発見された?

高麗人参
高麗人参の薬効はどのようにして発見されたのでしょうか?

高麗人参の薬効については、二千年前の中国最古の薬物書である「神農本草経」に記されているのが最も古いとされています。しかし、当時の医学書とも言える薬物書に記されるには、それより以前に民間薬としてすでに使用し、その薬効の確かさを知っていた人々がいたはずです。

多くの人々が何年ものあいだ服用し、実体験から薬効や副作用を知るにはどんな経緯があったのでしょうか。

最初に、ナマコやタコを食べた人は、さぞ勇気があったことと思います。どんな経緯で食べる羽目になったのでしょうか?

ナマコやタコのようにグロテスクではありませんが、数多くの植物からどのようにして高麗人参を発見し、食べて効果を体験したのでしょうか?

どのような経緯があったのか興味があったのでいろいろと調べてみました。

中国の民話に次のようなものがありました。
1987年出版された「中国の民話<薬草編>上」に収録されている民話で、1938年に外科医の馬星奎さんより聞き取った話です。

    むかしむかし、猟師の兄弟がおりました。ある日のこと、二人が連れ立って山へ狩りに出ようとしているとき、年寄りが声をかけました。

    「冬も間近だ。山の天気は変わりやすいぞ。吹雪にでもなったら山から下りられなくなるから気をつけろよ。」

    怖いもの知らずの若い兄弟は、年寄りの心配もよそに、弓矢と毛皮の外套と食べものとを持って出かけました。

    山では連日のようにたくさんの獲物を射止めました。その日も狩りに夢中になっていますと、昼さがりから空模様がおかしくなり、あっという間に大吹雪がやってきました。

    雪は二日二晩ふりつづけ、山道をすっぽりおおってしまったのです。こうなると山を下りたくても下りようがありません。

    兄弟は谷あいの樹木の茂みで冬を越すことにしました。あたりには幾かかえもある大木が何本もあります。そのうちの一本はすっかり朽ち果てて、幹がもろくなっていました。兄弟は、その大木の根元を大きくくりぬき、その中でたき火をして暖をとったり、鹿や兎の肉を焼いて食べたりしました。

    晴れた日には狩りをし、草の根っこも掘りました。

    ある日、兄弟は指の太さの蔓を見つけました。はて、何だろうと蔓をたぐっていき、地面を掘ったところ、腕の太さもある根っこが出てきました。

    それはまるで人間のような恰好をしています。何本か分かれて伸びた根はちょうど手足のようです。そして、かじってみると甘味があります。以来、二人はその根っこをあちこちで掘りあてました。不思議なことに、その根っこを食べると力がもりもりと湧いてくるのですが、食べすぎると鼻血がでます。そこで毎日少しづつ食べることにしました。

    やがて、寒くて長かった冬は去り、待ちに待った春がやってきました。風もやみ雪がとけはじめました。兄弟は獲物をかつぎ、喜びいさんで山をおりました。

    村では、元気いっぱいの兄弟の姿を見つけた村びとたちが、目を疑いました。てっきり凍え死んだか、飢え死にしてしまったものと思いこんでいたからです。

    「お、お前たち、山ではいったいなにを食べて冬を越したんだね。たいそう元気そうじゃないか」

    兄弟は、さっそく例の根っこをとり出し、村びとに見せました。誰も初めて見る植物でした。

    「ほう、人間そっくりの形をしておるわい。こりゃめずらしい。まるで人のようじゃ」

    その後、この話が付近の村に伝わっていくうちに、その根っこは人参と呼ばれるようになったということです。

    ちなみに、中国では、日本でいう朝鮮人参のことを人参(レンセン)といいます。日本でふつう人参(にんじん)と呼ばれている野菜は中国語では胡蘿匐(フーローボ)または紅蘿匐(ホンローボ)といいます。

    口述=馬星奎(外科医) 1938年に拾集
    <出典>
    中国の民話<薬草編>上 第十一話人参(レンセン)
    繆文渭(ミャオウエンウエイ)編 石川鶴矢子訳 田原(ティエンユワン)
    1987年出版 東京美術発行

民話の中にある高麗人参の薬効と副作用

やはり、食べざるを得ない状況におかれたということでしょうか。真冬の雪の山中に閉じ込められ、食べ物とくに野菜に飢えていたという事情から食べる動機が生まれたということですね。

しかし食べてみると、その得体のしれない植物には思いもよらない優れた薬効があった。しかもその薬効は、食べた本人以上に、他人も一見して分かるほどの明白なものであった。さらに、その根の形が人の形をしていたことも話題性を生み、一気に広がったことが窺えます。

この民話の中には、『神農本草経』に記された高麗人参の薬効を裏付けるものが多く見られます

    『神農本草経』に記された高麗人参の薬効
    ・主補五臓・・・・肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓など内臓全体の働きを正常状態に調整する。
    ・安精神・・・・・精気(腎の精気)と神気(心の精気)を安らかにする。
    ・定魂魄・・・・・魂(肝の精気)と魄(肺の精気)を落ち着かせる。
    ・止驚悸・・・・・情緒の激動、驚き、恐怖、不安などを鎮める。
    ・除邪気・・・・・病の原因となる邪気を除く(疾病の予防作用)。
    ・明目・・・・・・目を良くする。
    ・開心益智・・・・心を開き、頭の働きを活性化する。
    ・久服軽身延年・・・長く服用すれば、身体を軽く感じ、長生きをする。

主補五臓

二人の元気いっぱいの姿に、村びとが「お、お前たち・・・・たいそう元気そうじゃないか」と言っています。一見するなり元気さに驚いています。顔色もよかったのでしょう。これは高麗人参によって内臓が健康に維持された証拠です。

安精神・定魂魄・止驚悸・除邪気

寒くて長かった冬、木の洞の狭い空間でさぞ精神的には厳しい状況と思われます。しかし、不安や恐怖に怯えじっとしているのではなく、今できることに最善を尽くしていることが伺えます。高麗人参が不安を取り除き、精神を安定にするように作用したことによるものです。

明目・開心益智

「喜びいさんで山をおりました」とあります。目をしっかり開き、冬から春への季節の移り変りをとらえ、好機を逃さず下山しています。頭が良く働いていることがわかります。高麗人参の効果に他なりません。

久服軽身延年

「食べすぎると鼻血がでます。そこで毎日少しづつ食べることにしました」 少しづつ毎日食べることで「力がもりもり湧いてくる。」と兄弟が言っているように身体が軽く感じていることが分かります。

ただ、「食べすぎると鼻血がでます」とありますように、これが唯一の副作用でしょうか。自分に合った量を飲むことを言っています。

長年伝えられてきた民話には、尾ヒレがつき迷信のようなものもありますが、真実の部分もあるのではないでしょうか。この民話に伝えられている高麗人参の薬効は、現代医学でも確認されていることで真実です。

高麗人参の薬効の発見は、怖いもの知らずの若い猟師の兄弟が冬山で遭難したことがきっかけだったようですが、この名も知れない兄弟は人類に大きな贈り物をしてくれました。高麗人参の愛好家として、深く感謝申し上げる次第です。