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高麗人参が野生化するためには鳥と3つの自然要件プラス菌根菌

高麗人参[福島会津ではヤマドリが高麗人参の実を食べる言い伝えがある]

そもそも日本に高麗人参は自生しているの?

マツの外生菌根菌と高麗人参との共生関係を仮定(というより妄信)して、アカマツとクロマツの実験を開始したことを前の記事で報告しました。

しかし、そもそもマツと高麗人参が共生関係にあるのなら、産地周辺のマツ林に自生していてもおかしくないじゃん、なんて思っているアナタ! その通りです。

確かに、仰る通り300年を超える栽培の歴史がある日本の三大産地、福島県、長野県、島根県のマツ林に、自生の高麗人参があってもおかしくありません。でも見つけたという話はほとんど聞きません。

調べてみました。

日本にも野生の高麗人参はあります

 ハンバン高麗人参研究所編「高麗人参事典」(2008年)に「日本の山にも山参は自生している。長野県や福島県、その中でもカタチのいい気力のある山だ。・・・私が発見したのは・・竹節人参ではなく、間違いなく山参だ。」 

残念ながら著者名が記してありませんが、文脈から著者は韓国の方です。度々日本を訪れては山に山参を求めて登られているようです。いよいよ韓国のニンジンハンター日本上陸です。

長野県で見つかった野生の高麗人参

韓国人の経営する韓国料理店で聞き取りをしました。福島のお店です。高麗人参の代表的料理サムゲタンを注文して、ママに山参について尋ねてみました。すると、

    数年前に店の内装を施工してくれた東京の業者の方が、長野県の山林で”山参”を採ってきたので買ってほしいと持ち込んできた。

    日本にある筈ないと思っていたが間違いなく山参だった。小さかったので4万円で買った。

    腎臓の悪い主人に食べさせたところ尿がきれいになった。残念ながら数日後には元に戻ってしまったが。

と話してくれました。

以前から、畑栽培の高麗人参と山参とは全く別物と力説していたママですから、畑人参と間違えることはありません。

会津で見つかった野生の高麗人参

今村鞆著「人参史」第六巻・人参雑記篇に、福島県会津地方の山中に2・3年根位の人参の野生を発見したことが記されています。

高麗人参[今村鞆著「人参史」第六巻]

今村鞆は、1870年高知県に生まれ、1908年渡韓します。高麗人参産地でもある忠清道警察署など警察幹部を歴任後、朝鮮総督府に勤務しています。

在韓中から長年にわたり、朝鮮の民族学の研究に没頭し、大著「人参史」全七巻はじめ多くの書籍を出版しました、信頼性の高い情報と考えられます。


身近な話を含め3例を紹介しました。非常に稀ですが、野生の高麗人参があることは事実のようです。

高麗人参が自生するための条件

今村鞆は、どのような地域に高麗人参が自生しているかについて考察しています。高麗人参が野生化する条件として、生育環境が適合した場所と、そこに種を運ぶ鳥が棲息していることをあげています。”「人参史」 第六巻 第九章 第八節 第一項 人参の分布と鳥類” に実験結果をまとめています。概要は次の通りです。

高麗人参の自然分布の要件

高麗人参が野生化するための自然環境条件として次の3つをあげています。

    一、一定の温度、一定の湿度
    二、一定の層を有する広葉樹等の腐植土たる地質
    三、四囲に於いて広葉樹の疎ならず密ならざる、繁茂、即ち人参が要求する適度の光線の射入する環境の構成

    右の要件を具備せる土地へ、鳥獣が人参の実を持運べば必ず発生するに極つて居る。
    右の如くにして古来人参は自然に広がったに違い無い。

高麗人参の実を食ふ鳥は如何なる鳥か

今村鞆は、高麗人参の種を運んでくれる鳥はどんな鳥か、それが分かればその鳥の生息地域から高麗人参の自生分布が分かるはずであると考えました。

高麗人参[高麗人参の実]

動物園の技師の協力を得て、コウライキジ、エミウ、ヒクヒドリ、ムクドリ、モモイロインコ、ツグミなど26種73羽の鳥に対して実験を行っています。これらの鳥それぞれに、紅熟した高麗人参の実を与え食べ残した数を調べました。

結果は、ほとんどすべての鳥が完食しました。これには今村鞆も予想外であったようで、まさかアフリカやインド産の鳥までがこれを食べるとは思っていなかったようです。


高麗人参の実は渋苦いため、好んで食べれる代物ではありません。このため、今村鞆は、鳥は医療的自然本能から食物としてではなく薬物として食べているのではないかと興味を膨らませ、さらに実験を行っています。このことについては別の機会にしたいと思います。

今村鞆は、福島県会津地方にはヤマドリが高麗人参の実を食べるという言い伝えがあることを紹介しています。そして実験でヤマドリの兄弟分の雉子が高麗人参の実を食べることを確認しています。高麗人参の畑は日陰をつくるため寒冷紗で覆われていますが、鳥が入る開口部は十分にあります。

今村の言う自然分布の3要件についても、福島県には3要件を満たす森林が有り余るほどあります。よって、福島で野生の高麗人参が発見されても当然としています。

そうであるなら、もっと野生の高麗人参が見つかってもいいはずです。しかし、現実にはほとんど見つかっていません。何かが欠けているからです。

今村の言う自然分布の3要件に加え、4番目の要件として共生菌の存在があるのではないか、と私は考えています。