いろんな栽培方法を試みているけど、その結果はどうなったの?
菌根菌は? 松との共生関係はどうなった? 発芽コントロールは? それより水耕栽培はどうなったんだ?って声もちらほら。
そんな中、当ブログの読者の方から、記事が非常に参考になるとの望外のお褒めのコメントを頂戴し、気分も軽やかに今年1年の栽培をまとめていきたいと思います。
先ずは、アーバスキュラー菌根菌グロマス属で育てた1年苗のまとめです。
アーバスキュラー菌根菌グロマス属で育てた高麗人参1年苗は大きくて立派
高麗人参の土づくりは、ソルゴーやスダックスなどの緑肥作物を育て、それを鋤き込むことを繰り返して、2~3年かけてつくります。その結果、ふかふかな膨軟でアーバスキュラー菌根菌がたくさん棲んでいる土になります。
この手間を省いて市販のアーバスキュラー菌根菌(出光アグリ社Drキンコン)を使って、超簡単土づくりで1年苗を育てようということで試験を開始しました。過去2回の報告はこちらをご参照ください。
→高麗人参栽培ポイントの土づくりを3年から0年にする方法
→凄いぞ!アーバスキュラー菌根菌による高麗人参プランター栽培
VA菌は高麗人参の天候不順耐性や耐寒性を向上させる
今年は、9月に多くの大型台風の襲来もあり日照不足の高温多湿の天候に見舞われました。前回報告の10月1日時点で枯れ始めるものが多い中、Drキンコンを施したものは全く枯れずに青々としていました。
11月1日時点では、さすがにDrキンコンを施したものも、葉の多くは萎れていますが、まだまだ緑を保っております。対照区に対して、約1ヶ月も成長期間が長くなっています。
福島県会津地方の畑栽培のものは、9月に入って枯れ始めていますので格段に成長期間が延びています。
結果として、アーバスキュラー菌根菌には、天候不順耐性や耐寒性を高める効果があると言えるかもしれません。
掘り起こしながら思ったこと
葉がすっかり枯れた11月22日にすべての苗を掘りあげました。種は筋蒔きにしましたので、根同士が競り合うように埋まっています。想定より発芽率が高かったようなので、今年の種まきはもう少し密度を減らして播いた方がよさそうです。
来春の新芽もしっかり付いています。
高麗人参の種は土に潜り込む?
こんなに深く埋めたっけ? 深くても5cmに播種しましたが、掘ってみると5~6cmに新芽があります。まず根が出てその後に芽が出ますので、根が種を地中に引き込むのかもしれません。
高麗人参の根は秋になってから成長する?
驚いたのは前回報告したときより大きくなっていることです。前回は端の数本を掘り起こしただけですので明言はできませんが大きくなったように思います。高麗人参はどの時期に根が大きく成長するのでしょうか。
昔ブルーベリー栽培に凝った時期がありますが、果実は収穫直前に一気に大きくなり熟します。福島県会津の一部の地域では、稲の収穫で忙しくなる前に高麗人参を掘り起こしてしまいます。はっきりしたことは言えませんが、もしそうだとしたら勿体ないことをしているのかもしれません。
VA菌根菌で育った高麗人参1年苗は長さ・太さ・重さで総合優勝
育苗用土 | 対照区 | VA菌根菌 | トリコデルマ菌 | |
長さ(mm) | 215 | 135 | 194 | 153 |
直径(mm) | 4.46 | 3.60 | 5.59 | 4.96 |
重量(g) | 0.64 | 0.29 | 0.93 | 0.71 |
長さでは、育苗用土が最も長く、Drキンコンは残念ながら2番手。
直径では5mm越えの1番。
重量でもダントツ1番となりました。
やっぱ、アーバスキュラー菌根菌は凄い!めでたし、目出度し、芽出度し!
でも大きければいいの?
高麗人参1年苗 いい苗とはどんな苗?合格基準は?
ところで、高麗人参の1年苗はどんな苗がいい苗なのでしょうか?大きく成長した苗、形状が美しいなど容姿で判断するだけでいいのでしょうか。1年苗に要求される合格基準は?
長さ重さに加え、形状も重要
神林哲男著「会津人参史」によると、
移植用の苗は、形状や大小が収穫時の土根の形や収量につながり、長さ15cm以上、1根重が0.6g以上あって芽が大きいものを選別する。太い支根や上根は形状に影響するので選別時に除く。
とあります。
この基準を適用すると、長さと重さについては対照区以外は合格。形状については、いずれも太い支根はありませんが、上根は、育苗用土の苗には少なく、トリコデルマ菌、Drキンコン、対照区の順に上根が多くなっています。
この基準に従えば、何も高価なDrキンコンを使用する必要はありません。むしろ市販の育苗用土の方がいいことになってしまいます。
ちょっと脱線しますが、上根については思いつくことがあります。赤玉土(小粒)の混合比率の多いほど上根が多くなっています。育苗用土の土はキメが細かいのに対し、赤玉土(小粒)はキメが粗くなってます。土の粒が粗いと上根が多くなるのかもしれません。キメの細かい育苗用土の苗は、すらりとしていて良い姿をしています。
また、江戸時代に高麗人参の栽培方法を確立した田村藍水の書「朝鮮人参耕作記」によると、土は篩(ふるい)にかけると記されています。そして、いい人参の形状は一尺四~五寸(45cm)で横紋が多く細ひげ根が少ないこととしています。もちろんこれは1年根ではなく5~6年根についてです。
すなわち、目の細かいふかふかの土を用いることで良い形状の人参になるということですね。目の細かい土は、詰まって固くなりそうですが、緑肥作物の有機質を含んでいればVA菌根菌でふかふかになります。今年の播種で赤玉土以外のもっとキメの細かい培地を検討したいと思います。
本当にアーバスキュラー菌根菌グロムス属が共生しているのか?
長さ重さ形状に加え、大切なのがVA菌根菌グロマス属と共生していることではないでしょうか。これがこれからの高麗人参1年苗の新基準です。
Drキンコンを施した高麗人参1年苗は形状面で市販培養土に劣るものの、太さ重さでは逞しい1年苗となりました。しかし、重要なのはアーバスキュラー菌根菌が根に共生しているかどうかです。Drキンコンはメイズ(トウモロコシ)で10%の共生率と表示されています。果たして高麗人参に対してはどうでしょう?
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共生率の測定(農水省HP 地力増進法より抜粋)
栽培後、試験植物の根(以下「植物根」という。)を分離し、水洗いする。植物根のみ入った試験管に10%水酸化カリウム溶液を植物根が完全に浸るまで入れ、90℃以上の熱水中に試験管を浸し、温度を保ちながら植物根が透きとおるようになるまで放置する。水酸化カリウム溶液を除去し、水洗い後、試験管内に5%塩酸を植物根が完全に浸るまで入れ、常温で10分程度放置する。塩酸除去後、染色液(アニリンブルーまたはトリパンブルーを0.1%)を植物根が完全に浸るまで入れ、90℃以上の熱水中に30分程度放置する。植物根を、1cm程度の間隔のグリッドライン入りのシャーレに移し、顕微鏡下で共生率を測定する。
つまり脱色し染色することで観察しやすくするわけですが、残念ながら今年はここまで手が出ません。とりあえずそのまま顕微鏡で観ることにしました。
根の細胞の合間をVA菌の菌糸が入り込んでいるようにも見えます。
さらに次の写真では、嚢状体のようにも見えます。
しかし、正直言って良く分からないというのが結論です。来年は共生菌の観察技術を身につけたいと思います。
アーバスキュラー菌根菌の有無にかかわらず、市販の育苗培土を使用すれば、合格レベルの大きさと形状の1年苗を得ることができました。
しかし、大きさと形状だけを求めているのではありません。大きさだけを求め窒素肥料を多用した明治~昭和時代の農業に戻ってはいけません。
アーバスキュラー菌根菌に期待しているのは、6年後も成長を続けることができる病原菌耐性です。6年も待ってられませんのでVA菌が共生していることを確認する観察方法の確立は欠かせません。来年の大きな課題のひとつです。
長い記事を最後まで読んでいただきありがとうございました。