お待たせしました。やっと正体が分かりました。
高麗人参の根につくゼリー状のものは、根から分泌されたものだった
高麗人参の水耕栽培をしていると根の表面にゼリー状のモノが付着していることに気が付きました。最初は何だろうと思っていましたが、これが根への酸素の供給を妨げて高麗人参に根腐れを起こす原因になっているのではないかと思いました。
そこで、このゼリー状の付着物を取り除けないものかと、メダカに食べさせることにしました。結局メダカは死に、それが原因でカビが蔓延してしまいました。結果、全滅という大失敗に終わりました。というのが前回までのあらすじです。
取り除くことばかりを考えていましたが、そもそもこの付着物はどこから来るのだろうと調べてみると、どうも根の内部から分泌されたものであることがわかりました。
植物の根は、土壌から水分や養分を吸収するだけだと思っていましたが、分泌物も排泄します。
高麗人参の根分泌物は糖類やタンパク質などを含んだ粘液物質ムシゲル
根からの分泌物は主に糖類ですが、その他、有機酸、タンパク質、アミノ酸から酵素、さらに植物ホルモンなどの高麗人参の細胞内にあるほとんどの化合物を分泌しています。これらの化合物は根分泌物(Rootexudate)と総称され、その量は光合成で得た炭素の10%以上を占めます。
これらに、根の表面から脱落した細胞などの不溶性分泌物も混ざって根の表面に付着します。この粘液物質(mucilage)はムシゲルと呼ばれます。
これが高麗人参の根に付着していたゼリー状の物質の正体です。
高麗人参の根に付着したムシゲルは何のために分泌されているのか
ムシゲルは単なる高麗人参の排泄物でしょうか。何のために分泌しているのでしょうか?
ムシゲルは栄養豊富な化合物を含んでいますので、土壌中に生息している病原菌の餌となったり、化合物(アレロパシー物質)の長期間の残留によって、強い連作障害を起こす原因になります。
しかし、悪い面だけではありません。光合成の10%も排出するにはそれなりの理由があります。ムシゲルの本来の目的は次の通りです。
- 土壌の鞘をつくり乾燥から根を保護する。
- 根の伸長をしやすくするため土壌粒子のすべりをよくして摩擦抵抗を減らす。
- アルミニウムの過剰障害を防ぐ。
- 鉄結合リン酸を可溶化して吸収を助ける。
- 有用微生物を引き寄せる。
写真は発芽後半月成育した高麗人参の根です。
右手は土耕栽培したものです。洗浄でも落ちないほど強固に土が付着しています。ムシゲルが分泌され、土壌の鞘が作られていることが分かります。
一方、左手の写真はハイドロコーン栽培のため、土壌の鞘は見られません。
植物はもっと壮大な目的を持って根分泌物を出している
高麗人参をはじめほとんどの植物は、根分泌物を出すことによって自分の根の周りに多数の微生物を集めます。根粒菌、外生菌根菌、内生菌根菌、病原菌、寄生菌など善悪多くの種類の微生物が引き寄せられます。
植物は自分の好きな微生物とコミュニティをつくっている
植物は根から糖などのエネルギーを微生物に与えます。一方、微生物からは水分や無機養分を貰います。この共生関係を築ける微生物のみを棲息させ根圏といわれるコミュニティを形成します。
つまり、植物は根分泌物を土壌中へ分泌することによって、生物的・非生物的環境をコントロールしています。病原菌を排除して連作障害を防ぐことも制御しています。さらに菌根菌によって土壌中に張り巡らせたネットワークを通じて、森全体のコミュニティをコントロールしているのではないかという研究者もいます。
高麗人参が好きな微生物(菌根菌)とは?
水耕栽培で高麗人参の根に付着したゼリー状のモノは根分泌物で、共生相手である菌根菌を求めて分泌していることが分かりました。
植物によって根圏に棲息させる菌根菌は異なります。好き嫌い、相性があるようです。高麗人参はどのような菌根菌と共生関係にあるのでしょうか。
また、水耕栽培では水中の根に菌根菌をどのように与えればいいのでしょうか。今後の課題です。