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東洋の高麗人参と西洋のマンドラゴラの4つの共通点

高麗人参[西洋の不老不死の薬草”マンドラゴラ” ドイツ語ではアルラウネ]

不老不死の霊薬を栽培していると友達に伝えたところ、米国在住の友人からマンドラゴラのことかって言われ、??ポカン??What’s that? 調べてみました。

マンドラゴラは、映画ハリポッターで一躍有名になったようで、時世に疎い私の知る由もないところでした。映画ではマンドラゴラは薬草学の授業に出てきて、魔法で姿形を変えられたり呪いをかけられた人たちを元の姿に戻す回復薬として紹介されていました。

この植物は旧約聖書の創世記にも記されていて、人間との係わりは古く、不老不死の薬の原料とも言われるようです。確かに高麗人参と似たところがあります。

高麗人参とマンドラゴラの思想上の共通点

高麗人参の百科事典ともいえる「人参史」を著した今村鞆は、「人参史」第六巻の中で20ページにわたりマンドラゴラについて記しています。この植物に対する関心の高さが窺えます。

なぜ関心を持ったか?それは東洋の高麗人参と西洋のマンドラゴラに多くの共通点があるからです。

共通点として次の4点をあげています。

    1)根の形が人間の姿形に似ているものを崇め、霊草視されていること
    2)魔除けの力があるところ
    3)性欲興奮剤として使用されているところ
    4)採掘するとき号叫するところ

今村鞆は、「高麗人参とマンドラゴラは東西異なる植物だが、之に対する思想は東西相通じたるものがある。この思想は中国から西洋に伝わったものか、反対に西洋より中国に伝わったものなのか?」の疑問を懐いていろいろと調べています。

しかし、結局両者は全く別物で、東洋と西洋の間に伝来などによって似たような思想が生まれたわけでもなく、両者には何らの関係も無いことが分かったとしています。それぞれがそれぞれの土地で生まれた思想であると。ではなぜ違う植物に対してこんなにも似た思想が生まれたのでしょうか?

人間は人の形をしたものを崇める習性がある

これに対し今村鞆は、東洋西洋問わず往古においては、奇異な形をした植物や岩石を特別なもの霊物として崇拝することが行われていた。その中で特に人の顔面、人体、生殖器に似たものを崇拝することは地球上いたるところで例外なく行われてきた風習。後に、人形や鬼形や生殖器を木石に刻み掘って、これをご神体として祀るようになった、と述べています。 

さらに、商魂たくましい商人が販売戦略として、人の形をしたものに係わる伝説を利用してこの薬草の価値を高めご利益を謳ったことがこの思想をより普及し助長しました。当然疑似品などが多く出回りますが、この点も高麗人参と似ています。

現在においても、人面魚や人面犬などが現れるたびに多くの人がご利益を求めて崇拝に出かけます。何時の時代も人間は人の形をしたものを崇める習性があるようです。

高麗人参と同じくマンドラゴラ伝説は多い

高麗人参に関する伝説や民話は非常に多く伝えられています。その中には、真実を含んだものも多く大変有益で、本ブログでも時折紹介させていただいています。

東の高麗人参と同様に、西のマンドラゴラにも多くの伝説があります。この伝説や民話の多さもこの2つの植物の共通点です。興味は深まるばかりですが、そのひとつを紹介します。

    西暦七世紀の初めスペインの僧正で、中世最も行われた大部の百科全書を著したインドルス曰く。
    マンドラゴラの根には男形と女形とあり之を採る人は之に触らぬ様注意して其の周囲を飛び回るべし。先ずこの草に犬をしかと括り付け断食させること三日後、パンを示して遠方より呼べば犬はパンを欲してこの草を強く牽き、根は叫びながら抜け去る。

    その叫びを聞いて犬は矢庭に死ぬ。人もこの声を聞かば忽ち死する故に耳を強く塞ぐを要す。

高麗人参[出典:人参史 第六巻 牧野氏ヨリ]

図は、マンドラゴラを発見した女神が得意気にそれをジスコリデスに贈呈している場面を描いています。たった今掘採って来た時の様子のようで、女神の前にはマンドラゴラを掘採に使った犬が瀕死の状態になっていることが描かれています。(Vienna Dioscoridesからの引用図)


マンドラゴラはこんな植物

マンドラゴラは、ナス(茄子)Solanales目、ナス科 Solanaceae、 マンドラゴラ属 Mandragora、種は、Mandragora officinarum (Linneus)、Mandragora autumnalis Bertol.、Mandragora caulescens Clarkeの3種がある。

この3種のうち、Mandragora officinarum (Linneus)をマンドレイクと呼び、地中海地域からアジア最西部のトルコにかけてに自生し、無茎の宿根草で、葉には葉柄があり大型の卵形。初生の葉は鈍頭だがその後に出る葉は鋭尖頭になる。

高麗人参Mandragora officinarum (Linneus)の漿果

早春に出芽し叢生し地面に平布する。三四月頃、葉中より出た枝に黄色の臭気のある一鐘状の花が咲く。5月には漿果が熟し黄色となる。多肉でスモモ大で一種の匂いあり。地下茎は大根に似て多肉肥厚。

中には二股三股に分岐し、その上部も分岐して人形に似たものもできる。


高麗人参Mandragora autumnalis Bertolの花

学者によっては、真のマンドレイクはMandragora autumnalis Bertol.だとする説もあります。この種は地中海沿岸地方特にギリシャに多く自生していて、秋深藍色の花が咲き、ギリシャでは媚薬(惚れ薬)と性的興奮薬として使用されていました。


マンドラゴラの薬効と成分

マンドラゴラは、古代から中世にかけて、鎮痛薬/麻酔薬、中絶薬、解毒薬、媚薬薬、催眠薬、および睡眠剤として使用されていました。

高麗人参[薬用植物:中央がマンドラゴラ]

具体的には、膿瘍、関節炎、骨痛、痛み、痙攣、吐き気、丹毒、眼疾患および炎症、痛風、頭痛、痔、腰痛、ヒステリー、不妊症、炎症、関節痛、皮膚の炎症、不眠症、蛇咬傷、脾臓の痛み、胃の病気、腫れ腺、腫瘍、潰瘍、子宮炎症、虫刺され傷。 不安やうつ病の治療薬としても使われました。


これらの作用をもたらす成分として、マンドラゴラ・アルカロイドの存在が確認されています。アルカロイドの種類としては、ヒヨスアミン、スコポラミン、さらに アトロピンおよびマンドゴリンが確認されています。

高麗人参にも、ニンジン・アルカロイドが存在し、その作用の有益性が研究されています。この2つの植物の薬効にそれぞれのアルカロイドが重要な働きをしている点も共通点です。

アルカロイドは薬用植物にとって非常に重要な成分のひとつですので、また別の機会にまとめて報告していきます。

高麗人参とマンドラゴラの現在の扱われ方の差は大きい

マンドラゴラは、シェークスピアやゲーテの作品の中にも見られたり、もっと新しいところでは、漫画やイラストのマンドレイクの例がいくつか見られます。これは漫画家や読者の魔法やオカルトに対する魅力とマンドレイクに関する伝説などの豊かな歴史があるからだと思われます。

高麗人参擬人化漫画_左:マンドラゴラ、右:高麗人参

また、Deep PurpleやGongなどのサイケデリックなロックバンドがその作品にマンドレイクを組み込んでいます。さらにハリーポッターや人喰い植物のえじきなどの映画にも登場します。

残念ながら高麗人参の歌や映画は見たことがありません。これらの領域では、高麗人参よりマンドレイクの方が人気を博しています。


そのような人気の高さをもつマンドラゴラですが、医薬面ではそれほど重要視さているわけではありません。 これは主に、この植物を精神活性植物として使用するにしても、その栽培方法が確立がされておらず、利用性が低いからです。そのため、現代科学の研究対象となったことがありません。

一方、高麗人参においては、日本を含めた東北アジア地域で野生種が乱獲され絶滅が危惧される中、栽培方法が確立されています。供給面の不安がなく利便性が確立しているため、研究機関によって科学的な成分の分析が進められ、現代医学領域において益々期待される存在となっています。

70年前に少子化対策の秘策ビジネスを考えていた牧野博士

マンドラゴラは、悪魔りんご、恋りんご、恋なすとも云われ、西洋では惚れ薬や催淫薬として非常に有名なこの植物が、まだ一度も日本に輸入されないことに対して牧野富太郎は著書「趣味の植物誌」のなかで次のように言っています。

    今日は、ハア「えろ」全盛の時でもあれば、どこかの植木屋で早速之を欧州から取り寄せ、盆栽にでも仕立てて売り出したら「カフェー」などでは忽ち競ふて之を「テーブル」の上に並べるだろうから、きっと大儲けができるに違いない。それは確かにわしが謂合ふとくからここはひとつうんとやって見るがよい。その時はこの秘策を授けたオレには必ずその儲けの一割だよ。ヨイカ。

牧野富太郎は「日本の植物学の父」といわれる権威ある大先生です。この当時の日本人は茶目っ気があり寛容です。

牧野先生、少し早かったようです。「えろ」全盛時代を終え男子も草食化してしまい少子化対策に悩む現代こそ、この秘策が必要です。実行しましょう。マンドレークに高麗人参も加えましょう。

    参考資料
    1)今井鞆著「人参史」 第六巻 雑記篇 551-570頁 第十二章 人参とマンドラゴラ (1939年)
    2)牧野富太郎著「趣味の植物誌」 190-200頁 「東で人参、西でマンドラゴラ」(1948年)
    3)Keith Cleversley, Mandragora officinarum-mandrake (2002), entheology.com.