神秘の霊薬である高麗人参を栽培するに当たって、心構えは必要でしょうか。
韓国の高麗人参栽培の心構えは、人間関係に通づる
高麗人参の本場韓国では、人参栽培農家のあいだには、昔から言い伝えられているタブーというか心構えがあります。これは高麗人参に対する敬意であったり、畑を霊域と尊ぶ気持ちの現れです。
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● 高麗人参は主人の足音を聞いて育つ ーー日々の手入れを怠ることなかれ。
● 高麗人参畑で口笛を吹くな ーー霊域である畑で口笛を吹くとは不謹慎極まりない。真剣に観察しなさい。
● 高麗人参畑で小便するな ーー無礼であるのはもちろんのこと、窒素分の多い尿は人参にとっては禁物です。
● 高麗人参畑で人の悪口を言うな、けんかをするな ーー人参が聞いて生育が悪くなります。また品質のひとつでもある形状が悪くなります。
● 月経中の女性は高麗人参畑に入れない ーー不浄なものとして扱われます。しかし月経中の女性を労わってのことかもしれません。
● 葬式帰りに高麗人参畑に寄ってはいけない ーー縁起が悪い。
日本の高麗人参栽培の心構えは、後世のために
日本における高麗人参栽培について、体系的にまとめたものとして、明治32年(1899年)に発行された「人参栽培製薬法」があります。
会津の初瀬川健増氏が、高麗人参の栽培、製造加工、販売に至る全般にわたって記述しています。特に、栽培と製造加工については、教本として極めて貴重な文献としてまとめられており、会津人参のみならず全国各地の高麗人参産業に大きな貢献を果たしました。
氏は、本書の序文に「多年良法ノ秘録ノ世ニ散逸スルモノアランカト広ク求メ深ク探リテ得ル能ハス、僅カニ人参譜、和漢人参考、朝鮮人参耕作記、人参識等ノ書アリト云エトモ一小冊子ニ止マリ単純漏ラスナシトセス然ルニ明治二十八年露国宮内御料省農学士イクリンゲン氏我ガ家ヲ訪イ問ウニ漆樹ト人参トノ栽培自序ヲ以テセリ予カ久年実地研作セシ処私誌寄稿ヲ味シテ之ニ答フ氏喜ヒテ去ル」とあり、のちに有隣堂書店の主人がこの私誌があるのを知り出版を奨めたました。
本著書は、高麗人参の栽培についての専門書と評価されるものですが、この中には栽培の心構えのようなものは記述されていません。
ただ、栽培記録はこまめにつけ、ときにはそれらを体系的にまとめていくことの大切さを伝えています。それが後世への財産になっていくのだと思います。
日本の農家の心構えは、世界に先んじている
2015年10月30日の記事で、福島の有機コメ農家丹野さん(74)が2015年10月25日の日本経済新聞「ひと協奏」欄に取り上げられていることを紹介しましたが、その中で丹野さんが教科書としている1949年に刊行された「いねつくり」という有機農法の絵本に興味があったので調べてみました。
丹野さんは30年以上前に、その絵本の監修者の黒沢浄氏(当時92歳)の長野の自宅を訪ね教えを請うたそうです。「土をなめて土壌の性質を言い当てる。あんな百姓になりたいと思った。」と丹野さん。現在移住先の長野でこの絵本を教科書に、近隣農家や県職員の方々と勉強会を開き、黒沢氏の教えを広めています。
日本にはすごい農家がいた!
「レイチェル・カーソンの『沈黙の春』に先駆け、農薬を使わず安全な作物を育てる技術や心構えを説いた先達が日本にもいた」。丹野さんは、そのことを広く知ってほしいと言い、著作の復刊も模索しているそうです。
レイチェル・カーソンは1960年代に農薬の環境問題を告発した米国の生物学者で、ケネディ大統領も強い関心を示したと言われています。
「いねつくり」はすでに絶版となっており、国会図書館デジタルコレクションに所蔵されています。絵本になっていて、どなたでも理解しやすくなっています。簡単だけど本質を突いています。農業を志す方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
黒澤浄翁指導 ゑばなし「いねつくり」のあらまし部を紹介します。
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(一)いねはたれがつくる |いねはお土とお日さまの子。人間はただおてつだいさせていただくだけです。
(二)天地のご恩 |あさにいのって、ゆうべにかんしゃ。
(三)土はいきている |土は万ぶつの母
(四)まず土をつくれ
(五)かんさつだい一
(六)いねのきもちになりきる
(七)たのしんでつくる
(八)愛情が作物には最高の営養
(九)稲のつくり方は稲にきけ
(十)米は温度でとれる
(十一)いなさくの要てん |一に日光、二にサンソ、三ばんめにはびせいぶつ
(十二)いねの成ぶんよりみたぞうさんの工夫
(十三)化学ひりょうがなくても米はとれる
(十四)しぜんのめぐみをいかしましょう
(十五)境界あらそいのない耕地のひろげかた
(十六)ぞうさんはまづふゆ田おこしから
(十七)苗しろをできるだけはやく
(十八)しめくくりーぞうさんのひけつは大つぶ多粒
このあと本文に入り具体的な稲の作り方が書かれています。
66年前に書かれた35ページの絵本ですが、稲作りに対して、農業に対しての心構えが簡潔にまとめられ、しかも大変心に響いてきます。
筆者もこれを胸に、高麗人参の水耕栽培に励んでいきたいと思っています。