おたねくん、福島には吾妻五葉松という素晴らしい伴侶がいますよ。いかがでしょう?
高麗人参の共生菌を探して、ゴヨウマツに辿り着きました。ゴヨウマツのあるところ高麗人参の種さえ落ちれば自生するはずです。
なんと高麗人参の日本の三大産地のひとつである福島は、日本三大五葉松の産地でもあります。
その松は吾妻五葉松。マツ科マツ属ストローブ亜属。日本百名山の吾妻連峰に自生する五葉松。盆栽愛好家の間では、那須五葉松と四国五葉松と合わせて日本三大五葉松と呼ばれています。
そして吾妻五葉松を良く知る方と出会いました。
吾妻五葉松盆栽作家の阿部氏との出会い
アカマツ、クロマツ、朝鮮松に続き、吾妻五葉松との共生関係を試したくて、吾妻山麓をぶらぶら。セレンディピティという言葉がありますが、まさにそのような出会いでした。
吾妻山山麓にお住いの盆栽作家の阿部健一氏、大樹氏とそのご家族です。
全くの初対面のうえ、アポなしの突然の訪問にも拘らず、ご邸宅の中へ招き入れていただき、お茶に奥さま手づくりのお漬物までいただき恐縮するとともに大感激でした。そして、私の荒唐無稽とも思える話を聞いていただきました。
高麗人参と五葉松が菌根菌を通じて共生関係にあるのではないか、実験をしたく五葉松を探していることをお話したところ、快く吾妻五葉松のご提供を許していただき、ただただ感謝感激です。
明治より三代続く盆栽作家
阿部家は明治以降三代続く盆栽作家。初代倉吉氏の著書「五葉松盆栽の作り方」は、英語はもとよりフランス語、イタリア語などにも翻訳されていて、盆栽作りのバイブルとなっています。
盆栽づくりの技術と作風は二代目健一氏、三代目大樹氏に引き継がれています。欧米から指導のために招聘されることも多く、国際的に活躍されている盆栽作家です。
「空間有美」という表現と「実生」という文化
初代阿部倉吉氏は自らの作風を「空間有美」と名付けられました。作風というより哲学と言った方がいいかもしれません。
人間の造形ではなく、自然の造形を再現することが基本、手本はあくまで自然、自然に対する深い洞察から生まれる美。単に松だけではなく、風、雨、雪、光など松が育った厳しい自然環境をも感じさせる空間を表現する。
お話を聞いて、それが「空間有美」という考え方ではないかと感じました。
そのため初代含め、ご高齢の二代目も三代目と共に何度も吾妻山に足を運び、自然の吾妻五葉松と対峙されるそうです。
といっても、山から松を採ってきて盆栽に仕立てるのではありません。環境省の許可を得て吾妻山から採ってきた種を苗床に播き数年、圃場に移し数十年、鉢上げして数十年をかけて育て、整形整姿していきます。
種から育て50~80年かけて創り出していく「実生」という文化、自然に対する畏怖、敬意の姿勢が貫かれています。
阿部家に棲み付く菌根菌
満足いく姿が整うまで50~80年とは驚きです。高麗人参の栽培年月が短く思えてしまうほどですが、この長い年月の間、マツが枯れることがなく元気に生育するのは菌根菌の存在があることは間違いありません。
圃場にはキノコが生え、鉢にはびっしりと白い菌根菌の菌糸が蔓延っています。鉢でもキノコが生えるものもあるそうです。
三代続く阿部家の圃場や作業場には菌根菌が棲みついていて、敢えて菌根菌を接種しなくても、自然に松の根に共生するようです。
ちょうど酒蔵に麹菌が棲みついているのと同じように。阿部家の盆栽が元気がいいのはこのためです。
しかし、海外へ出荷する苗木はセンチュウ予防として薬剤への浸漬が義務付けられていて、浸漬後苗木に元気がなくなるそうです。菌根菌が影響を受けているのかもしれないと。
いざ、高麗人参と吾妻五葉松との共生実験開始!
阿部先生からご提供された吾妻五葉松は苗木かと思いきや樹齢五十年の堂々たる盆栽で、恐縮してしまいました。高麗人参と共生するかどうかより、この立派な五葉松を枯らしてしまわないかと心配になりました。
吾妻五葉松には菌根菌がビッシリ
いただいた五葉松には菌根菌がしっかり棲み付いていました。この菌根菌がベニハナイグチかどうかはこの時は分かりませんでしたが、のちにキノコを見せていただき、ベニハナイグチであることを確認しました。
五葉松は、大きめの60リットルの鉢に軽石を敷き、赤玉土と腐葉土を2:1で混ぜた用土に移し替えました。マツの株元に、高麗人参1年苗と種を播きました。
現在の高麗人参の生育状況
吾妻五葉松の根元で出芽した高麗人参、初めての初夏です。現時点では、アカマツ、クロマツ、チョウセンゴヨウに比べ成長が遅いようです。しかし、外見だけではわからないのがこの植物です。
高麗人参の農家さんに聞くと、1,2年に大きく成長し過ぎると、収穫の5年目には根が割れたり、根腐れになったりするとのことなので、一概に小さいからと言ってダメとは言えません。結果が確認できるのは4~5年後になります。
その間に、阿部氏が命名された「日暮しの松」、「白鷺の松」、「不老の松」を見学しに吾妻山に登って来ようと思います。もちろん山参も探しに。