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野生の高麗人参・山参の栽培1年目の記録(1)

高麗人参[福島市街から望む安達太良連峰と吾妻連峰]

日本に、野生の高麗人参はありますか?

残念ながら、ありません。

高麗人参の自生地である中国吉林省長白山においても乱獲がつづき、絶滅が危惧されています。野生種の高麗人参は、韓国語で山参(サンサム)と呼ばれ、古来より不老長寿の霊薬と崇められてきました。1本当たり数十万円から数百万円で売買され、百年モノに至っては1千万円の値が付きこともあります。

その不老長寿といわれる効き目を確かめたい、そしてそれで高齢社会を救いたいと思い、山参の栽培を始めました。

森林で栽培したものは山養参と呼ばれますが、4代目以降は山参となります。数十年後の話です。

バカバカしいと思わないでください。やってる本人大真面目です。山参栽培1年目の記録です。

吾妻連峰から安達太良連峰に広がる広大な森林から栽培地を選ぶ

幸いふくしまには高麗人参のふるさと中国長白山に似た森林があります。

表題写真のように、福島市西部に位置する吾妻連峰から土湯峠を越え安達太良連峰に南北につながる奥羽山脈南部、その東斜面には広大な森林地帯が広がります。吾妻山と安達太良山は、どちらも火山で標高はおおよそ二千メートル、森林は火山灰土壌。森林の樹種は、紅葉のきれいな広葉樹と針葉樹の混合林。特に吾妻山連邦には吾妻五葉松が群生しています。

山参堀りの職人「シンマニ」が言い伝えてきた民話や学術文献などの調査の結果、山参の自生している場所のキーワードは、火山、北東斜面、チョウセンゴヨウ、外生菌根菌性広葉樹、冬寒冷夏冷涼な気候。

これらのキーワードをすべて満足する場所はありませんが、吾妻連峰はおおよそ合致します。試験栽培用林として、吾妻五葉松、アカマツ林、ナラ林、杉林の4つの森林で行うことにしました。標高は400-500m。もちろんそれぞれの地主さんの許可を得てます。

01.試験林1左から、吾妻五葉松林、アカマツ林、コナラの林、スギ林

吾妻五葉松の林

吾妻五葉松はチョウセンゴヨウと同じ、マツ科マツ属ストローブ亜属。那須五葉松と四国五葉松の日本三大五葉松のひとつ。福島市は、三代にわたり欧州でも著名な盆栽作家阿部氏がおられます。阿部氏よりご提供いただいた吾妻五葉松と高麗人参の鉢栽培で感触は確認済み。

高麗人参[かつての盆栽用吾妻五葉松苗木の立派に育った林を進む先生]

吾妻五葉松の群生地の多くは国立公園の中にあります。幸いなことに現在は生産者の方は少なくなりましたが、かつて福島市は盆栽用苗木の一大産地。

苗木栽培地を放置していたら吾妻五葉松の林になってしまったという方がおられ、今回使用させていただくことになりました。セレンディプティです。感謝です。

さらにこの吾妻五葉松林は東向きの斜面で、条件は整っています。


アカマツの林

バイコフの森に見るようにチョウセンゴヨウは生態系の頂点にいて、テンや豹、トラ、高麗人参などを育む豊かな森を形成していました。しかし、中国や韓国の近代化により建築資材としてチョウセンゴヨウが乱伐され、もはやチョウセンゴヨウの森が少なくなっています。そこで韓国では、近年アカマツ林における人参栽培の研究が盛んに行われています。

高麗人参[マツノマダラカミキリムシの進入穴]

日本にはチョウセンゴヨウはほとんどありませんので、アカマツ林で栽培が可能ならそれに越したことはありません。

ただ、日本のアカマツ林は松くい虫の被害が拡大していて、アカマツに元気がないのが懸念されます。今回の予定地も松枯れが近くまで来ています。高麗人参栽培がアカマツ林の保全につながればいいのですが。
予定地は残念ながら西斜面となっています。


コナラの林

山参の自生地はチョウセンゴヨウと広葉樹の混合林。コナラの森はキノコが豊富と言われるように、外生菌根菌のネットワークが張り巡らされています。

ギンランコナラの林に自生するギンラン

コナラはコツブダケを通してキンランに光合成産物の炭素源を提供することが分かっています。ここのコナラの林にはキンランこそありませんが、ギンランが自生しています。

一昨年に木の実が落ちて一面コナラの子苗が群生しています。コナラが外生菌根菌を通して高麗人参に栄養だけでなく炭素源も提供してくれるはずです。


高麗人参コナラの林に自生するマムシグサ

さらに、有毒植物のマムシグサも生えています。以前アメリカの文献で、アメリカ人参はマムシグサが生えてる環境を好むと書いてありました。どんな内容だったか覚えていませんが、高麗人参にも何らかのいい影響があればと思います。


スギ林

 
日本の人工林面積の約70%を占めるスギ・ヒノキ林。植林から伐採まで約50年ほどかかる投資回収サイクルの長い材木ビジネス、ここで高麗人参の栽培ができれば、その合間に5~6年サイクルで高麗人参の根を売って、短期での収入確保が可能となります。林業への若者の新規参入の促進と花粉で評判の悪いスギのイメージアップに繋がればと思います。

幸いなことに、スギ・ヒノキの菌根菌は、アーバスキュラー菌根菌グロマス属であり、畑栽培の高麗人参の共生菌根菌と同じです。日覆の設備投資も要らず、3年間の土づくりも不要。外生菌根菌ではないので山参と同じ成分にならないかもしれませんが、無農薬、無化学肥料の自然栽培の可能性に期待がもてます。

高麗人参スギ林に自生する竹節人参(トチバニンジン)

偶然にも今回選んだスギ林には、高麗人参の仲間の竹節人参(トチバニンジン)が自生していて、加えて東斜面なので期待がもてます。


種を播く

高麗人参[スギ林の土]

森の樹種にばかり着目して、土壌についての検討が十分とは言えません。土を食べて判断する名人も居られるようですが、土壌の世界も奥が深く生半可ではありませんが、いずれ取り組みたいと思っています。

今回はとりあえず写真のみでお許しください。有機質を含んで膨軟でふかふかな土ですが、深さは十分とは言えません。


高麗人参の種は福島県会津産で、2015年の7月に採種し、催芽処理を済ませたものです。福島県には、県農林試験所が開発した「かいしゅうさん」という胴長の優れた品種がありますが、入手が難しく今回は在来種を使用しました。

高麗人参[師匠の軽快な鍬さばき]

播種には先生と師匠に立ち会っていただきました。先生と師匠はアラウンド平均寿命のご高齢ですが、その分知識と経験は半端なく豊富です。何でも相談できる頼もしい方々です。これだけで山参の栽培が成功したような気になっています。

今回の山参が、先生と師匠の健康寿命が延びることに寄与できるよう、「早く育て、早く育て」と呪文を唱えながら種を播きました。


高麗人参[先生と師匠に手伝っていただいた種まき]

2015年12月1日に無事播種を終え、翌春の出芽を待ちます。


To be continued.

    <参考資料>
    1)農林水産省森林研究所、”VA菌根の農・林業への有効利用”研究の森からNo15(1991)
    2)巽 大喜他(東京大学院農)、”スギ・ヒノキ人工林土壌中のアーバスキュラー菌根菌の群集構造と共生効果”、第123回日本森林学会大会:K20(2012)