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高麗人参の共生菌根菌はススキやシバの草地土壌に土着している

高麗人参

高麗人参の土づくりのポイントは?

高麗人参の根に共生する菌根菌はアバスキュラー菌根菌のグロマス属とアカウロスポラ属であることが九州大学の大賀先生によって2007年に明らかにされました。

その後2014年には、韓国教育大学のKil先生によって、高麗人参の共生菌は主にグロマス属で、1年根で71%を占め、毎年増加しつづけて、5年根ではなんと92%を占めることが報告されています。

高麗人参になくてはならないアバスキュラー菌根菌のグロマス属の豊富な土壌をつくるにはどうしたらよいのでしょうか?

アーバスキュラー菌根菌グロマス属の豊富な高麗人参の土づくり

そもそもアーバスキュラー菌根菌グロマス属はどこにいるのでしょうか。

日本の半自然草地に高麗人参の共生菌が土着している

農業環境技術研究所の斎藤先生の調査によると、ススキやシバが生えている日本の半自然草地の土壌中にアーバスキュラー菌根菌が土着菌として生息しています(※参考資料参照)。

高麗人参[図1 土壌中のVA菌根菌の胞子 参考資料より引用]

そして、ススキ土壌には、Glomus sp.とAcaulospora longulaの胞子が、シバ草地土壌には、Glomus leptotichumの胞子が存在することが確認されました。

ススキ土壌には高麗人参の必要とする共生菌2種がいます。

ススキやシバが生えている半自然草地といえば耕作放棄地を思い浮かべます。高麗人参栽培が耕作放棄地対策になればと思います。

高麗人参共生菌を増殖するには接種資材か土壌管理か

アーバスキュラー菌根菌は宿主植物との共生のみによって増殖する絶対共生菌です。共生菌としての長い進化の過程で単独で増殖する能力を失ってしまったようです。残念ながら菌単独での培養は、現在も成功していません。

では、どのように増やすか?

農業環境技術研究所の斎藤先生は、土壌中に有効な土着菌が存在しない場合は、菌根菌の胞子を接種させた資材を導入することが有効だが、もともとの土壌に有効な土着菌が生息していれば、それを増殖させるように土壌管理や栽培管理をする方が有効であると述べています。

すなわち、ポット栽培など土壌にVA菌根菌がいない場合は、接種資材を活用し、VA菌根菌が土着している圃場では、その土着菌を増殖させる土づくりをすることを推奨されています。

高麗人参共生菌を畑に増殖させるにはソルガムの作付が有効

土壌中にすでに存在する菌根菌を増殖させるためには、宿主植物の力を借りる必要があります。この目的の宿主作物は、一般的に緑肥作物として知られ、ソルガム、えん麦、トウモロコシ、マリーゴールドなどがあります。

アバスキュラー菌根菌は宿主特異性は少ないと言われていますが、やはり相性は多かれ少なかれあるようです。どの宿主植物を選択するかが高麗人参共生菌根菌の増殖のポイントとなります。

斎藤先生は、ソルガムを宿主植物として選び、ススキ土壌とシバ土壌で栽培されました。菌根菌の増殖具合は、土壌中の菌根菌胞子密度と宿主植物の生育具合で評価されます。

高麗人参[図2 ソルガム乾物重量 参考資料より引用]

ソルガムの栽培結果は、図2のようにススキ土壌よりシバ土壌の方が良く育ちました。一方、土壌中の胞子密度は、図1にみるように、シバ土壌よりススキ土壌の方が多くなっています。土壌中の菌の密度と感染率とは比例しないということです。

大賀先生の論文においても、高麗人参栽培畑の土壌中にGigasporaの胞子が見られましたが、高麗人参の根細胞の顕微鏡観察やDNA分析ではGigasporaが出ていません。土壌中に菌があるからといって、必ず感染するわけではなく別の要因があるようです。

このことについて斎藤先生は、アーバスキュラー菌根菌の有効性(感染率)は、栽培管理、土壌環境要因、さらに現在の宿主作物だけでなく過去の作付作物の種類など無数の組み合わせによって影響を受けるとしています。何年もかけて土づくりをする必要があるということです。

共生菌さえ畑にまけば土づくりが終わるわけではなく、共生菌が棲みやすい土壌環境をつくることが重要ということです。高麗人参を育てる前に共生菌を育てる。これすなわち、土づくりということに戻ります。

高麗人参栽培仲間の高麗人参1年根に衝撃

高麗人参

先日、会津人参栽培研究会があり、研究仲間が1年根のアルコール漬けサンプルを持参して披露してくれました。写真の通り、なんとも立派なものです。

高麗人参共生菌の存在を裏付ける事実が身近に起きました

聞くところ、カヤ(ススキ)の生えた耕作放棄地を耕し、緑肥作物を鋤き込んで土づくりをされたとのことです。シバではありませんでしたが、まさに高麗人参の共生菌のグロマス属とアカウロスポラ属の2属が揃った豊かな土壌が、この立派な1年根に育て上げたに違いないと確信しました。

衝撃を受けるとともに発奮した次第です。


    [参考資料]
    平成17年度革新的農業技術習得研修「高度先進技術研修」
    環境保全型農業推進における土壌・養分管理技術
    土壌養分の代謝に関わる微生物の有効利用ー菌根菌の有効利用についてー
    農業環境技術研究所 化学環境部長 斎藤 雅典